愛の眼鏡は色ガラス

転写される自意識

P-zombie

「生きてるのに、死んじゃってるみたいな。生の質感を忘れてしまったって言えばいいのかな。例えば、母さんと昔行ったデパートの屋上で食べたアイスクリームの味は、多分あの時確実に生きている僕の一部分であったと思えるんだよ。でも、最近どんなアイスを食べても何だかその感覚が分からなくなっちゃって。美味しいことも分かるし、その一瞬間は満たされるなって思えるんだけど、からからの土に吸われる水みたいにすぐに何も無くなっちゃうんだよ。あの時食べた方のアイスクリームは、多分家に帰ってお風呂に入って布団で寝かしつけてもらっている時ですら幸せを感じられていたはずなのに、だからこんなのはおかしいんだ。明日、世界が終わっちゃうとして、今日したいことをいくつあげられる?ノストラダムスの予言ってあったじゃん。僕は凄く怖かったんだけど、結局何も起きなくて拍子抜けしてみんな普通に生きているでしょ。もしかしたら、あの時の緊張感と今の倦怠感の落差が、こんなに味気ない気分の原因なのかもって今気付いたんだよ。本当はあの時ちゃんとアンゴルモアの大王はやってきていて、僕らはゆったり絶望と無為の海に沈められているんじゃないのかなって。エリオットの詩でもあったじゃん。『世界の終わりは爆音ではなく、めそめそとやってくる。』っていうやつ。追い焚きの機能が壊された浴槽みたいに、いつの間にか冷たくなって風邪をひかされちゃう。今はまだ暖かいはずって思って、外に出られないああいう閉塞感を感じるよ。人間のトレンドがさ、今前進や開拓よりも自壊や潜行だと思うわけ。今日よりも明日がいい日になるとか、そういう陰がないプロパガンダってもう流行らないじゃん。もうあとは手元のカードをどの順番で切っていって、どんな順位をつけてもらえるかって段階になってるんだよ。ああ…何だか眠たくなってきちゃった。話の続きはまた今度しよう。クリームソーダがある喫茶店がいいよ。」